
Artist's commentary
おしえてこーりん!
■彼女の瑞々しい裸体に興奮などしてない、いや、嘘はよそう。
たとえ凹凸に乏しくとも、ごつごつとした僕の身体とは比べ用もなく彼女の身体は柔らい。違う、ということはそれだけで興奮につながるのだ。
無論、僕の気持ちは僕の目の前に居る彼女から見ても、わかりきったことだろう。そんな揺れる心の隙間をこじ開けるように、彼女は僕の心に入り込んできた。
まるで、まだ固く閉ざされた、熟れきらぬ未だ青い膣壁をこじ開ける暴虐な男の根の様に。
僕は男だというのにそんな感覚に犯されていたのだ。
身を委ねてしまえば一気に気を飛ばしてしまいかねない程の快楽が僕を待っていることだろう、しかし、僕にはそれは許されない行為だ。理性、というものもある、それに、プライドだってある。
僕の何倍も年上であるとはいえ、見た目としては僕の半分くらいに見られるだろう、そんな女性に篭絡されたとあっては、今よりも一層引篭もりになりかねない。恥ずかしい噂はもうこりごりなのだ。
僕のことを、幼馴染のあいつを自分好みの女性に育て上げた光源氏だとか、度々店を訪れる巫女は毎度朝帰りだ、なぜなら……言わせるな恥ずかしい。とか……、そういうのはもう勘弁願いたいわけだ。
だというのに、それはわかっているのに、このままではいけないのに。
彼女の瞳が、紅い紅い瞳が、動揺する僕の瞳をのぞき込んでいる。眼を離すことができない。彼女の、激しく燃えているようでいて、視線を外した瞬間に消え失せてしまいそうなあの儚い瞳から、眼を離すことが、できない。
彼女が微笑む。まるで雲の上にいるかのような、ふわふわとした気持ちにさせる視線だ。だが、それにのせられてはいけない、いけないんだ。
――だが、気づいた時にはもう遅い。まるで僕自身の体が僕のものではないかのように、動かすことが出来ない。自由が利かないのだ。
戸惑い、どうにか身体を動かそうとするものの、常に視線は彼女の瞳に釘付けだ。身体の異変を見渡すことさえできない。
彼女の柔らかい指が、僕の股間に触れてた。まるで彼女に触れられた部分だけが発火しているように熱い。僕の脳が急激に熱を帯びだした全身を冷ますかのように、発汗を促している。
渾身の力でもって、もはや喉まででかけているワードをなんとか搾り出せば、熱に浮かされた様な彼女とて、行為の停止には従ってくれることだろう。
でも、出来無い。「勿体無い」「快楽に身を委ねたい」そしてこの怒張した股間から、「種を吐き出したい」
脳が肉体を抑制してしまっている。僕の意識とは別の何かが、彼女に身を委ねることを決定してしまっている。
僕の心を、思いを、意思を、『雄』という本能が裏切ってしまっているのだ。
情けなくも僕は、どうしようもなく『雄』だった。
そして彼女こそ、紛れもなく『雌』だった。
……あとは語るまでもないだろう。衣服を剥ぎ取られた雄と、自ら身に纏うことを拒否した雌がただ二人いるのだ。
やることは、一つしかなかった。
■歯が疼く。牙が疼く。自然と口の端が釣り上がっていっているのが分かる。
別にこいつじゃなくてもいいのだ。誰でもよかったのだ。そうだ、そうに違いない。
私の中の何かが、私を突き動かしている。本能、というものだろうか。獣性というものだろうか。ずっと一人で暮らしてきた反動なのだろうか。
確かに身体は熱かった。まるで火照るようだった。炎を使う私がだ、笑い話のようだ。
こいつの怯える子犬のような瞳が私を誘ったのだ。私はこんな不貞な行為をするような、ふしだらな女ではないのだ。
こいつが悪いのだ。こいつが私を誘っているのだ。
空腹な虎の目前に丸々と太った豚がぶうぶう♪と鳴いていたらどうするだろうか?言うまでもないことだ。喰らうだろう?
もてあそぶように餌の体中を舐めつくし、己の腹に納めることを想像し、満腹感から駆け巡る心地よさで自らの脳内を快楽に彩り、絶頂に達した瞬間、獲物の柔らかい肌に鋭い牙を突き立てるのだ。
走馬灯が駆け巡るのがありありと分かるような餌の涙でうるむ瞳を見つめながら、悦楽に狂った虎は、喰らうのだ。
興奮で自分自身が燃えるような体温だというのにもかかわらず、己が牙で柔肌を貫いた瞬間に、飛びかかる熱い液体の熱さ一滴一滴に感激することは間違いない。
餓死寸前の虎の眼の前で腹ばいになって命乞いをしているのがこの眼鏡だ。
こいじゃあなくても別にいいのだ。ただこいつがここに居たのが運の尽きなのだ。(呼んだのは私だが)
嗚呼暑い、熱い。すでにシャツは脱ぎ捨ててしまった。あとは、下しかない。喰らうしかない。脱いでしまったら喰らうしか無い。
満たしたい、満たしたい。こいつを喰らってしまいたい。
誰だってそうだ。私だって、そうだ。どれだけ永く生きても、私が仙人にも慣れなかった理由。
それは、私がどうしようもなく人間だからだ。繁殖本能に突き動かされてしまう雌だからだ。
女にだって、男にも勝るとも劣らない性欲があるのだ。
さぁ、運の悪い眼鏡には覚悟を決めていただこう。
既に此奴の男の証ははちきれんばかりに怒張している。脳内から分泌されるドーパミンやβエンドロフィン、セロトニンがまるで体内から溢れるように、私の舌からも、下からも涎が絶えず流れ出ている。
じゅるじゅるになってしまった私の舌がむき出しの雄に触れるか触れまいか、そのタイミングでこういうのだ。上目遣いに謂うのだ。
「――霖之助、せっくすというものを教えてくれないか?」
■みたいな本が例大祭新刊になるとおもいます。