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Artist's commentary
ラーチェル×エフラム
戦の合間の麗らかな時間がエフラムは嫌いではなかった。
戦いの中で血をたぎらせ、自らの力の高みを目指すのは勿論好きだ。だがこんな安らぎの緑の中そっと寝転んでまどろむのも好きだった。
しかし、彼の安らぎは簡単に破られてしまったようだ。
先程から響き渡っていた自身を呼ぶ声の主がとうとう現れたのだ。
「まあっ、エフラム! ここにいましたのね」
騒がしい声が直ぐ近くで響く。
「……俺は今寝ている。後にしてくれないか」
目を閉じたまま返すと声の主は再び「まぁ」と呟いた。
「いけません! わたくし、貴方に所用がありましてよ」
用と言っても大体の内容は明らかだ。
エフラムはうんざりする程彼女に追い掛けられている。それを思い返して眉根を寄せた。
「あのなあラーチェル」
「ああエフラム、何も言わないで。いえ、いえ、やはり仰ってくださいな。……わたくしはどうしたら貴方のようになれますの!?」
やはり、問われる内容はいつもと変わらない。
エフラムは呆れたように口を閉ざした。このまま寝た振りでもしてしまおうかと。
だが瞬間、どさりと身体の上に重みを感じる。
ぐ、と漏れ出た息と共に瞳を開けるとラーチェルが寝転ぶエフラムの上に馬乗りになっていた。
「わたくしは貴方に憧れていますのよっ。いつでも堂々と、王者たる気質で皆の中心に立ち、好き勝手振る舞うその勇士に!」
ラーチェルの語気はどんどん激しいものになっていく。エフラムは面倒だというように盛大な息を吐いた。
「悔しいですわ、悔しいのですっ。しかし認めざるを得ないのですわ。だからわたくしは貴方を尊敬しておりましてよっ! 貴方のそのとっても図太い神経を!」
「……まるで褒められているのかけなされているのか分からないんだが」
「褒めているのですわっ!」
ですから秘訣を、とラーチェルは身を乗り出した。指を突き立て、横たわるエフラムを成敗したと声高らかに宣言するかのように。
「どのようにすればエフラムのようにどっかりずっしり物怖じせずいられるのか、我が道を突き進めるのか、豪胆の秘訣を是非ともご教授くださいな!」
びしぃ、と今一度、まるで音を立てるようにラーチェルが指を突きつける。
「……」
人の身体の上に跨がって腰に手を当てる若き娘にエフラムははあと息を吐いた。
本当に、困った人である。
エフラムの周りにこういった人物はこれまでいなかったためにどう対応してやるのが好ましいのか検討もつかない。
ただでさえ彼はそういった気遣いなどを得意としていない。それは自分でも分かっている。
だからこそラーチェルの望む答えが分からなかった。
今までも、これからも、きっと自分の答えは変わらないだろう。
「聞いてますの!? レディが話をしておりますのに無視をするなんて非常識ですわよ?!」
反応のないエフラムにラーチェルはとうとう眉を逆立てて身を乗り出し、エフラムの顔を覗き込むような体勢を取った。
今この瞬間を誰か他の者に見られた場合、何の言い訳も出来るはずがない程の体勢に。
「……ロストン聖王女が躊躇いなく男の上に乗り上げる方が非常識だと思うが」
言って、エフラムは大きな溜め息と共に馬乗りになるラーチェルを押し退けて立ち上がった。それだけを言い捨てて足早に、逃げるようにその場を去って。
「……あ、あら?」
ラーチェルはコロンと転がるようにエフラムからずり落ちた後、止める間もなく立ち去って行く彼の後ろ姿を見つめるしか出来ないでいた。
しかしハッとなるように起き上がって。
「まあ! なんてふてぶてしいっ! さすがエフラムですわ……」
また逃げられたと。くっと唇を噛み締めて、ゆらゆらと湧き上がる感情がラーチェルを決意させる。
「ま、負けませんわ!」
己に言い聞かすようにぼそりと呟き、ラーチェルは自身に誓うよう拳を握り締めて空を見上げた。
その後彼女がエフラムをひそかに“師匠”などと呼んでいたことをエフラムは知らない。