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Artist's commentary
鈴瑚の地上人飼育日記
この人間を飼い始めてから既に半年が経った。
最初こそ悪態をつき何度も脱走を企てていた彼だが、その度に愛情を持って“躾”を施したおかげか、今では逆らうこともなく我々の繁殖に進んで協力してくれている。
ただ、時折こうして「帰りたい」と家族のものらしき名前を呼んでは泣く姿は少々鬱陶しい。
やはり未練を断つべく、目の前で彼の両親と妹を焼き払ったのは流石に不味かったのだろうか。あの匂いと断末魔の絶叫は、確かに記憶に残る。
しかしこれも穢に適応した次世代の玉兎を産むためには必要なことなのだ。
彼だって、穢れた地上を浄化する月の英雄達の父親になれたことを、後できっと私たちに感謝するだろう。
子を産んだのは皆 初めてだった。
更に地上人との混血という例のない事態で最初こそ戸惑っていたものの、産まれた子供たちは大した病気や怪我もなく日に日に成長し、私の最初の子供と清蘭の最初の子供は無事に生後三ヶ月を迎えた。
玉兎の成長は早い。通常ならば三ヶ月もすれば、既に体躯の見た目は大人と同じになる。
そろそろ座学や戦闘訓練をはじめるのもいいだろう。
…もっとも、玉兎の大人といっても人間から見れば十代程の容姿だが。
しかし気掛かりなのは捕虜の扱いを確認するためという名目で綿月様から遣わされている、あのレイセンとかいう小兎だ。
彼の身の回りの世話をさせたり子供の面倒を見させたりと便利には使っているが、嫦娥様の部下である我々とは派閥が違う。
彼も妙に彼女には心を開いているようだし、何か工作を仕掛けてくる可能性だってある。
今後はやつの動向にも注意が必要だろう。続く。