
Artist's commentary
常連客たちの目の前で
琴線を保つ心をともに【メスケモおもらし小説短編】 | またたびしもの novel/19510331
Source: https://www.pixiv.net/artworks/106622121
【挿絵アリ】琴線を保つ心をともに【メスケモおもらし小説短編】
黒豹の吟遊詩人の雌獣人が酒場にていつもは居ないはずの貴族や衛兵からの多くのリクエストを承けてしまい、トイレに間に合わずおもらししてしまう短編。
セリフのカギ括弧無し、擬音無し。
この剣と魔法の世界では、様々な村や里、街があり、王が統治する城が聳え城下町は栄えている。魔法による街灯が灯り、酒場は常に賑やかで、窓からはハープの弾き語りが溢れる。
その酒場の中では、綺麗な黒緑のドレスに身を包む酒場の黒豹吟遊詩人の演奏に耳を傾ける人々で賑わっていた。
美しい女の黒豹の吟遊詩人は、伸びやかな歌声で歌い、ハープの演奏を行っていた。透き通る歌声と優れたハープの演奏は、多くの人々を魅了した。今日はとりわけリクエストが多い日であった。酒場は常連客たちで賑わい、今日は長旅から戻ってきた冒険者たちが多くの報酬を持ち帰っているという噂もあった。
彼女はリクエストに応えて、偉大な王の話や勇敢な冒険譚、凶悪な魔物に立ち向かう話を酒場の客に届けた。彼女はいつものペースでチップ代わりに貰う酒を飲みながら、弾き語りを続ける。酒場は、彼女の演奏を聴きながら、冒険者達の帰還を待ち焦がれ会話を弾ませた。
客の中には噂を聞き付けたからであるのか、衛兵や、王城から来た兵士、貴族も混じっていた。珍しくもそのような人達からも黒豹の吟遊詩人へリクエストが来る。彼女はリクエストに応えながら歌い続けていた。そうして演奏中、ほんの僅かな尿意を次第に感じ始めたのだった。
しかし、トイレに向かう前に彼女は貴族からのリクエストに応える必要があった。彼らを待たせる訳にはいかないと彼女は神経を集中させ演奏を続けたが、徐々に尿意が強くなっていく。ようやくリクエストの一つを終える事が出来た後、彼女はトイレに行くために黒緑のドレスを引き席を立ったが、既に曲を聴き終えた後の観客の方が先にトイレに向かっていた。酒場は大きいとはいえ、今日は混んでいたためトイレは直ぐに満室になる状況だった。弾き終わった彼女が遅れるのは無理もない事であり、列に並ぶかどうかを思案している間に彼女を呼ぶ声が後ろから聞こえた。彼女は渋々席に戻り、次の演奏が終わったらトイレに向かう事にした。
その判断が誤りだった。貴族は古い曲を懐かしむように連続でリクエストし、中断を挟めない様子となった。彼女は演奏を続けなければならないというプレッシャーと、膀胱が限界間近となり高まっていく尿意との間で苦悩した。演奏しながらも太股を強く閉じ、膝を擦り合わせて必死に尿意を押さえ込もうとしていた。演奏さえしていなければ、そして人の目さえなければ今すぐにでもその閉じる太股の間に両手を差し込んで耐えたい程であった。勿論両手はハープを演奏し続け、酒場の観客の殆どの視線が注がれている中では不可能なものであった。
彼女は演奏を続けながらも、頭の中はトイレに行きたいということでいっぱいになっていた。耳は酷く低く後ろ向きの三角に引き攣っており、曲と歌にも乱れが顕著に現れる。貴族や常連客の前で粗相をするわけにはいかないというプレッシャーが掛かり、知り合いも、一緒に終わった後よく話すバーテンダーの店員も、よく慕ってくれている妹のような店員もいるため、彼女は絶対に失態を犯さずここを乗り切ってトイレに向かうという意思と心情を持ち続けた。しかし、膀胱が満杯になった今、溢れ出しそうなまでもの尿意に身を強ばらせ、尻尾を歪に曲げ震えさせ、耐えきれるかどうかが分からなくなってきていた。
彼女は、もう限界があと数分もない事を体で理解していた。耐えきれなくなった場合、自分がトイレに間に合わずこの場で粗相をしてしまう事を想像すると、恥ずかしさと焦りで頭の中が真っ白になる。しかし彼女はこの状況を乗り越えるためにも、あと少し、あと数フレーズとばかりのリクエストの曲を一生懸命演奏を続けた。
彼女の声は荒い息に震えて掠れ、指はハープを弾き間違える。周りの人たちは何が起こっているのかと、彼女を見つめた。彼女はなんとか尿意を我慢しようとし、そして尿意が限界であること、膀胱が満杯となり今にも粗相をしてしまいそうなことを悟られぬように努めようとした。
だが、またもや演奏を僅か間違え咄嗟にカバーしようとした瞬間、小さな三角耳が弾かれたように動き、黒い尾が小刻みに震えて歪に跳ね上がり、下着にほんの僅か暖かい染みが広がる。ちびってしまったのだ。観客の目の前で、貴族のいる前で、常連客の見守る前で。ほんの少しだけ、漏らしてしまったのだった。思わず前屈みになりかける。幸い黒緑のドレスに染みまでは浮かばなかったためにその股座の内で起きた事は気付かれはしなかったが、もう我慢が効かない事を悟る。
そして、ついにその時が訪れた。
足が痙攣し踵が細かく床を打ったかと思えば、黒豹の吟遊詩人は小さく、慌ただしさを滲ませた短い悲鳴を上げた。太ももを強く閉じ、慌てて引け腰になり、絶対にこの場でしてはいけない事を必死で防ごうとした。しかし、それは溢れ出してしまった。下着から勢い良く溢れくぐもった音を響かせたそれは辛うじて止めたものの、座る椅子に面する黒緑のドレスの臀部は明らかな失態を染み込ませ、濃く滲ませ広げるには十分な、おちびりとはもう呼べない量の尿を漏らしてしまった。つまり、彼女がもしトイレに立てたとしても、何が起きてしまったのかは酒場の誰の目にも明白となる有り様だった。手遅れであったのだ。
ハープの乱れた不協和音が酒場に響き渡り、急にくの字に身を折って水平にした尾を震わせ、歌が途絶えた黒豹吟遊詩人の姿に周囲は注目した。その酒場の皆の視線の集中する中、とうとう、身をがくがくと震わせる吟遊詩人のドレスの股座に誤魔化しようもない大きな濃い染みが広がっていく。椅子に座り太股を強く閉じるまま爪先を立て震わせて、ドレスに広がった染みは張り付いてその下に隠された白い下着を浮き上がらせ、体毛さえも自らの出してしまったものに浸り黒く明らかな失態の様相を浮かび上がらせる。やがて、何度も止めようとしているが為の引き絞られくぐもった水音が断続的に響き渡り、強く閉じる太股の上で染みは股座の三角州に濃い色合いの水溜まりを作っていく。そしてついには、その勢いの付いた水音も留まることをしなくなり、太股の下、椅子から床へと滴り落ち、靴までを水浸しにし、周りがまだ理解しきれず騒然とする中で床に打つ黄色い液体の音が響き渡る。
同時に、股座と太股の間で留まっていた尿のダムが膝を抜けて、くるぶしから、足首に大きな黒い染みの跡を、そして足元に黄色い水溜まりを広げていく。
https://www.pixiv.net/artworks/106622121
黒豹の吟遊詩人がおもらしをしてしまった事を理解した瞬間、周りの人々は驚きと動揺に包まれた。衛兵や貴族、常連客たちは、彼女の失態に驚き、口々にささやき声を上げた。一方で、彼女を見ていた人々の中には、同情の目を向ける者も多くはなかった。
木の床の上に広がっていく尿の水溜まりに離れた場所でゆらめく暖炉の火の光が反射する。広がり、溝に沿って伝い、近くの薄汚れたカーペットに濃い色合いを染み込ませていく。黄色く、寒い冬の酒場の床の上に臭気を伴った湯気をもわりと立ち登らせ、そして椅子からその水溜まりに垂直に落ちていく多くの雫は暫く止むこともなく、水音は演奏の止まってしまった酒場に大きく響いた。
結局、とめようもなく、出し切ってしまった。そして、尻尾を武者震いでうち震わせた。彼女は、おもらしをしてしまった、やってしまった、と何度も現実逃避の為に真っ白になりかける頭の中で繰り返し呟く。暖かく、気持ち悪い張り付いた感覚と、豹の獣人であるが為のネコ科の尿のきつい匂い、悪臭が、酒場という楽しむ場、食事の場にあるまじき排泄をしてしまったことを、彼女は否応無しに自覚させられる。本来トイレでするべき、誰にも見られず知られるべきですらない恥ずかしいことを、この大勢の前で、我慢できず。現実なのだと。衛兵や貴族といった普段ここに立ち寄らない人々からは、軽蔑の目が向けられ、侮蔑の声さえも聞こえてくる。
常連客たちは彼女をよく知っており、彼らの中には貴族たちに向かって文句を言う者もいた。そんな中で、彼女はハープを握り締めるまま、自分の失態による恥ずかしさと不甲斐なさに圧倒されており、侮蔑の言葉が頭の中に繰り返される。
彼女は、酒場から消えて、二度と戻ってこないことを望んだ。今起こったことを考えると、他の客たちに会うことは彼女にとって耐えられないことであった。彼女は、穴にでも入って世界から消えたいと思い、絶望した。
彼女は、トイレに行けずに失敗してしまったこと、子供でもこんな失敗はしない、大人で、ここで働かせてもらっている吟遊詩人で、今まで沢山積み重ねてきたのに、と頭の中で様々なことが巡り、視界が滲んでついには泣き出した。
騒然とする酒場の中に、扉の開く音が聞こえた。そうして、彼女のそばに近づき、優しくタオルで彼女を包む姿があった。そして、慰めの言葉をかける。気にしなくて良いと。こんなことは誰にでもあることだからと、獅子の獣人である彼は優しく微笑んだ。
彼は、噂になっていた冒険者の一人であった。彼は賑わう酒場の窓から遠巻きに彼女の演奏を見ていたが、彼女の失態に驚き入店し、彼女を励ます言葉をかけたのであった。彼は冒険者として、勇敢で優しい人物であることを彼女はよく知っていた。彼もまた、この酒場の常連であり彼女の演奏を楽しみにしている者の一人であり、多く言葉を交わす仲であったからだ。
彼女は、彼の言葉に少し安心することができた。周りからは軽蔑の目で見られ、恥ずかしい思いをしていた彼女にとって、彼の言葉はとても優しく心地いものであった。
大変だったが、そんな時こそ自分を労わってあげるものだと彼は続けた。君は素晴らしい吟遊詩人だと私は知っている、と。一度の失敗で君の才能が失われるわけではない。次にまた演奏する時には、より素晴らしい演奏をしてくれることを期待している、と。彼はそう彼女に言い与えた。 冒険中に自らがそういった失態をしてしまったこともある、と相手を笑わせるために付け加えもした。
彼女は、彼の言葉に涙がこぼれ落ちた。彼女は、自分自身を責めていたが、彼の言葉で自分を受け入れることが出来たのだ。
後日、彼女は酒場を一時的に離れた。
事件の後彼女は、あの一件における恥ずかしさと屈辱から回復するために、しばらくの間とある一室を借り受けて休息を取った。彼女の心が常連客や新しい客に会うことが困難であることを知っており、それでいてその一つの出来事で自分を定義されてはいけないとも知っていた。彼女は自己反省の期間を持ち、音楽の練習をさらに厳しく行った。
彼女は彼の言葉に従い自分自身を労わり、次の演奏に向けて練習を積み重ねた。彼女は失敗から立ち直り、より素晴らしい演奏をすることができると自信を改めて持つことが出来るようになった。
日々が週に、週が月に変わったある日。黒豹の吟遊詩人は酒場に戻ってきた。最初は不安で緊張していたが、ドアを開けると拍手と歓声で迎えられた。常連客たちは彼女に再び会えて嬉しそうで、新しい客たちは彼女の音楽を聴くことを楽しみにしていた。勿論、その場には、彼女の休息を取る場を与えた獅子の冒険者も居た。
彼女はハープを手にステージに立ち、演奏を始めた。彼女の指が弦を弾き、彼女の声が部屋に満ちる。聴衆は彼女の音楽に、そして彼女が歌う言葉に耳を傾けた。
演奏している間、黒豹の吟遊詩人は安らぎを感じていた。彼女は明確に、失敗したことを知っていたが、彼女はそれから多くを学んだ。彼女はもう失敗を恐れず、それがもし、たとえ起こったとしても、もう塞ぎ込むことはしないと誓う。
酒場は再び音楽と笑い声で溢れかえった。黒豹の吟遊詩人は演奏を続け、聴衆は彼女を盛り上げる。彼女の音楽は間違いなく癒しの力を持ち、人々を結びつける力を持っていた。
その後の数年間、黒豹の吟遊詩人は酒場で演奏し続けた。彼女は酒場の皆の中において重要な存在となり、彼女の音楽は数え切れない人々の心に優しく触れる。今でも、彼女はその失敗よりも、彼女が作り出した美しい音楽で覚えられている。