
Artist's commentary
「まるる」と「るりま」
照りつける西日、赤く染まった川に映った1本の橋影。
その上で相対する2人の剣士、交差する剣戟が水面を揺らした。
まるるの振るう仕込み十手「傀武打「刃憎」 ーおおぶた にんにくー」は、彼女が他の弟子から書を奪うため、つまり剣士を倒すために選んだ武器だった。
優れた剣士の使う十手は、相手の剣を読みその動きを完全に封じる。対したるりまもまた、十手と鎖分銅による“剣士殺し”の餌食となり、次第に追い詰められていた。
「鎖が刀に!?」
「捕った!」
「ッ!こんなもの!!「鬼威斬・揺し手(オニイサン・ユルシテ)」!」
「刀身を振動させて抜け出た…!?こいつ違う流派を…なぜ淫豪流奥義を使わない!」
「私は奥義なんて教わってない!」
「お前の持つ2冊もハズレだったか!」
「ハズレ…?なんの事!私は一度も中を読んでいない!師匠から許しを貰っていないものを読む訳にはいかない!」
「じゃあアタリの可能性はあるわねぇ!るりま!捨て子のくせにそう律儀でいい子してるところも、私の気に障るのよ!」
「私怨でぇッ!師匠を殺してまでやりたかった事がそんな事か!」
「強くなる理由も無いくせに、後からやって来たくせに!たまたま拾われただけで可愛がられて!才能だけで私の先を行くお前がっ!」
「皆の背中を見て強くなった!あなたの背中だって!それなのに勝手に立ち止まって私の前から居なくなったのはあなたでしょう!道場にいた頃も一度だってあなたに勝てなかった!なのにどうして!」
「そうだよ、私はお前に勝ちたいんじゃない!負けたくないから戦っている!」
「身勝手に人を量ってッ…あなたが戦うべきは自分の心の弱さでしょう!」
「知った口を…!」
「私はここへ来て、たくさんと人と出会って、変わった!、」
「…そうらしいわね」
攻防の最中、耳に入るピシッという音。るりまの手首を伝わる嫌な感覚。
その瞬間を狙っていたまるるの鎖分銅が更打「颪」の刀身目掛けて飛び込む。打ち合いの中でヒビを入れられた刀は折られ、破片が宙を舞った。
「な…!?」
「弱い。迷いの乗った刀は脆いわよ、るりま」
刀へ意識を向けた一瞬、隙を見せたるりまは返しの鎖に巻かれ、遂に膝をつく。
「私が上だ」
冷たい十手が首に振り下ろされた。